2013年1月16日水曜日

インダス文明の装身具 Indus jewelry

インダス文明期(前2600〜前1900年頃)にはさまざまな素材の装身具が用いられた。石製、金製、銀製、銅製、貝製、土製、ファイアンス製のものがある。それぞれの素材はインダス文明が広がった広大な範囲の各地に偏在するもので、各種素材の装身具の分布は素材の獲得から加工、流通、消費にいたる一連の交易ネットワークの存在を示している。

装身具に用いられた各種素材の原産地

石製のものは玉類、金・銀・銅のものは玉類や腕飾類、貝は腕飾類、土製・ファイアンス製は玉類・腕飾類に用いられる。

もっとも数が多く出土するのは石製装身具で、凍石、紅玉髄、瑪瑙、玉髄、碧玉、ラピスラズリ、アマゾナイトなどさまざまな石材が用いられているが、それぞれ産地は異なっている。例えば、凍石はパキスタン北部のハザーラ地方やラージャスターン地方のアラワリー山脈、紅玉髄、瑪瑙、碧玉、アマゾナイトはグジャラート地方やバローチスターン地方、ラピスラズリはアフガニスタン北部のバダフシャン地方で産出する。こうした各地に分散して産出する石材で製作された装身具はインダス文明各地の遺跡で出土する。

インド共和国ハリヤーナー州ファルマーナー遺跡出土の紅玉髄製玉類

石材はそれぞれ色調が異なっており、そうした異なる色調の石材に対して当時の人々の審美観や価値観が投影されていると考えられる。さらに石材によっては加熱することによって色調を変化させたものもあり、特定の色調に対する志向性を顕著に示している。例えば、凍石は本来の色調は灰色系を呈するが、最終的に玉に仕上げられたものは白色を呈している。これは1000度前後の高温で凍石を加熱することによって白色に仕上げたものである。また、鮮やかなオレンジ色を呈する紅玉髄も加熱によって石材本来の色調を変化させている。

インド共和国ハリヤーナー州ファルマーナー遺跡出土の凍石製玉類

また、硬度も石材によって異なっており、装身具に仕上げる技術も異なっている。凍石は非常に柔らかい石で、金属製(おそらく銅製)の鋸で切断し、研磨を施して製作する。紅玉髄や瑪瑙、碧玉は非常に硬く、敲打によって形を整え、研磨を施して仕上げる。硬い石に穿孔するためにはそれ以上の硬さの石材でつくられた穿孔具や研磨剤の使用が必要となるが、インダス文明期にはアーネスタイトと呼ばれる硬い石材でつくられた穿孔具を用い、弓錐による回転穿孔技法を使う。

インド共和国グジャラート州カーンメール遺跡出土のアーネスタイト製穿孔具

インダス地域で製作されたと考えられる装身具(主に玉類)はメソポタミアやアラビア湾岸地域でも出土しており、交易品として広く珍重されたことを物語っている。

【文献】
  • Kenoyer, J.M. 2005 Bead Technologies at Harappa, 3300-1900BC: A Comparative Summary. South Asian Archaeology 2001. Editions Recherche sur les Civilisations, Paris. pp. 157-170.

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