インダス文明期(前2600〜前1900年頃)には人物と動物をかたどった土偶が多くつくられた。人物には女性と男性、さらには両性偶有のものがあり、動物では一角獣、コブウシ、スイギュウ、サイ、ゾウなどの例が知られている。また、コブウシ形土偶に深くかかわる遺物として牛車形土製品や車輪形土製品がある。
この時期の土偶はいずれも手捏ねで製作されており、貼付技法や沈線によって細部・文様を表現する。
このインダス文明期の土偶については、その起源は不明である。バローチスターン地方を中心に先文明期(前4000〜前2600年頃)以来、人物・動物土偶ともに製作されてきたが、形態的に文明期にみられる土偶の祖形と考えられるものは知られていない。
また、人物土偶やコブウシを除く動物土偶はパンジャーブ地方(ハラッパー遺跡)やシンド地方(モヘンジョダロ遺跡)といったインダス文明社会の核となる地域でしか出土しないか、周辺地域ではごくわずかに知られる程度である。
土偶とは異なるが、獣角をもつ土製人面もインダス文明の中核地域に特徴的である。印章に彫刻された図柄の中にも獣身で角をもつ人面の想像獣が見いだされる。インダス印章に描かれた図柄をみると、角をもつ動物に対する志向性が存在することが明らかで、さらに獣角を重要視する伝統が先文明期から文明期にかけて存在する。文明期には獣角を関する神あるいは王を描いた印章も知られている。こうした例から考えると、角をもつ動物に対する信仰が存在し、それが人間と合体することによってより文明社会を支える宗教的あるいは政治的な権威へと昇華されたのであろう。
こうした土偶が何に使われたのか示す直接的な証拠(例えば寺院や墓に伴う出土状況)はないが、当時の人々の精神世界を表象する重要な器物であることは確かである。時にこうした器物を捉えて玩具と解釈する研究もあるが、仮に玩具という名称を与えるにしても、純粋に「おもちゃ」としてではなく、インダス文明社会に生きた人々の世界観であったり創造性を投影するものとして検討が必要である。「造形行為」というもの自体がある社会に共有される固有の営為であるからである。
モヘンジョダロ遺跡出土人物土偶(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土人物土偶(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土人物土偶(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土人物土偶(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土人物土偶(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土人物土偶(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土人物土偶(Mackay 1938より) |
この時期の土偶はいずれも手捏ねで製作されており、貼付技法や沈線によって細部・文様を表現する。
このインダス文明期の土偶については、その起源は不明である。バローチスターン地方を中心に先文明期(前4000〜前2600年頃)以来、人物・動物土偶ともに製作されてきたが、形態的に文明期にみられる土偶の祖形と考えられるものは知られていない。
また、人物土偶やコブウシを除く動物土偶はパンジャーブ地方(ハラッパー遺跡)やシンド地方(モヘンジョダロ遺跡)といったインダス文明社会の核となる地域でしか出土しないか、周辺地域ではごくわずかに知られる程度である。
モヘンジョダロ遺跡出土イヌ形土偶(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土ゾウ形土偶(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土ウサギ形土偶(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土コブウシ形土偶(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土トラ形土偶(Mackay 1938より) |
土偶とは異なるが、獣角をもつ土製人面もインダス文明の中核地域に特徴的である。印章に彫刻された図柄の中にも獣身で角をもつ人面の想像獣が見いだされる。インダス印章に描かれた図柄をみると、角をもつ動物に対する志向性が存在することが明らかで、さらに獣角を重要視する伝統が先文明期から文明期にかけて存在する。文明期には獣角を関する神あるいは王を描いた印章も知られている。こうした例から考えると、角をもつ動物に対する信仰が存在し、それが人間と合体することによってより文明社会を支える宗教的あるいは政治的な権威へと昇華されたのであろう。
モヘンジョダロ遺跡出土土製人面(Mackay 1938より) |
モヘンジョダロ遺跡出土土製人面(Mackay 1938より) |
こうした土偶が何に使われたのか示す直接的な証拠(例えば寺院や墓に伴う出土状況)はないが、当時の人々の精神世界を表象する重要な器物であることは確かである。時にこうした器物を捉えて玩具と解釈する研究もあるが、仮に玩具という名称を与えるにしても、純粋に「おもちゃ」としてではなく、インダス文明社会に生きた人々の世界観であったり創造性を投影するものとして検討が必要である。「造形行為」というもの自体がある社会に共有される固有の営為であるからである。
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